
静かな石畳の小径を抜け、紅の暖簾が迎える有斐斎弘道館の入り口。
竹垣に囲まれた路地は、まるで江戸の時代へと誘う時空のトンネルのようです。

切石と乱張りの対比が印象的な庭の小径。
直線的な意志と、不揃いな自然の形が調和しながら、見る者を静かに奥へと導いていく。
両脇に広がる苔は、まるで庭が呼吸しているかのように柔らかく、
一歩ごとに、心のざわめきがそっと静まっていくのがわかる。
この庭には、「歩く」という動作そのものが、ひとつの瞑想となるような力がある。
庭師としてこの通路には凄い手間暇をかけた技術がこもっています。

一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。
畳の間に据えられた炉には、今まさに湯が湧き始めようとしている鉄瓶。
音も香りも、すべてが「もてなし」の一部として準備された静かな舞台。
道具の数は少なくとも、そこにあるのは“削ぎ落とす美”。
茶の湯が大切にしてきた「余白」や「間(ま)」が、この一室に満ちている。

苔に覆われたやわらかな地面の先に、静かに建つ腰掛待合。
木々の間から差し込む柔らかな光に照らされて、その簡素な佇まいがいっそう美しく見える。
ここは、茶室へと向かう前に心を鎮めるための場所。
鳥の声と風の音だけが響く中、客人は日常から少しずつ離れ、茶の世界へと身をゆだねていく。
茶事の「始まり」を告げるこの一角にこそ、もてなしの心の原点がある。

むした庭一面に、静けさと気配が漂う。
中央には丸みを帯びた石灯籠が佇み、左右には飛び石と延段が交差するように配されている。
その先には簡素な竹垣と待合、さらに奥へと続く主屋の数寄屋建築。
春を知らせる紅梅がそっと色を添え、自然の風景と人の手仕事が美しく重なる。
この庭には、「見る庭」ではなく「歩き、感じ、内省する庭」という思想が息づいている。
まさに、数寄の心と侘び寂びの美が同居する、庭園文化の精髄がここにある。
ひとつひとつの風景に、時を超えた美と心の静けさが宿る有斐斎弘道館。
庭を歩き、茶室に身を置き、苔や石の呼吸に耳を澄ませることで、
忘れていた「静寂の豊かさ」に気づかされるひとときでした。
ぜひ、この特別な空間の魅力を、映像でも味わってみてください。
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